第15回 shiseido art egg 中島伽耶子 Hedgehogs　ハリネズミたち in 資生堂ギャラリー

資生堂ギャラリーでは公募プログラム第15回shiseido art egg 第3期として、中島 伽耶子氏による個展「Hedgehogs」が開催されています。
壁や境界線をモチーフとして人と場所との関わりについて問う作品を制作している中島氏の本展における作品は、ギャラリーが巨大な壁で分断され、造形だけでなく音や光も併せて、来場者が参加することで感じさせ、考えさせる作品になっています。
単に美しいものを傍観するのではなく、あなたが積極的に作品に関わろうとすることで今の時代だからこそ共感できるアート体験が生まれることでしょう。

イントロダクションから“参加”して
資生堂ギャラリーへと降りていく階段の踊り場は、他の展覧会ではイントロダクションのように小品が展示されていることが多いです。本展では、ぼつんと呼び鈴のボタンが置かれているだけなので、あっ、いつもとは違うなと気づくことができます。

このボタンを押すことにためらいや恥ずかしさを感じるかも知れませんが、勇気を出して押してみましょう！これを押すのと押さないのとでは、大展示室で作品に向き合った時の印象がまるで違ってきます。まずはボタンを押して、中島氏の作品へ“参加”することをお奨めします。
階段を降り切って、大展示室に進むと、そこには天井まで届く壁が立ちはだかっています。

Hedgehogs (ハリネズミたち)のジレンマ
中島氏は物事を隔てる壁や境界線をモチーフにしながら、場所との関わりを出発点に作品を制作されてきました。今回の展示では人との関係性における希求と暴力性をテーマに空間を構成されています。

壁には、ガラスの破片や棘のようにも見えるアクリル板がゆるやかに変化する光に照らされて、怪しく輝いています。この壁に刺さるアクリルの板がハリネズミの針に似ていることから、「ハリネズミのジレンマ」という寓話にちなんで個展タイトルがつけられています。ハリネズミが寒い冬、お互いの身体を寄せあって暖め合いたいと近づくのですが、お互いの針が刺さってしまうため、離れたり近づいたりを繰り返すというお話らしいです。

立ちはだかる壁に向かって感じ、考える楽しさ
光に照らされるアクリル板の棘は透明な影を落としつつ、床面にも幾何学的なパターンを映し出します。それがとても美しい反面、左上から右肩下がりに流れるように配置されているようにも見え、あまり楽観的だったり、パワフルな印象は受けません。

壁の中央には、実際には開けられない扉があります。踊り場で呼び鈴を鳴らしていれば、扉の向こう側は分かっているのに、なぜか開けると何か違うものがあるようにも感じ、扉を開けてみたくなるかも知れません。

考えてみれば、造形としてのサイズだけではなく、実生活の中でも概念的にこれほど圧倒的な壁に向き合う機会はそれほどないでしょう。いや、気がついていないだけで、実はあるのかも知れません。

見上げるだけで、壁を乗り越えることは難しそうですが、ドアも開かない。一種の無力感にも包まれますが、不思議と絶望的な感じもなく、いろんなことを考え、ちょっと不思議な気持ちになれるでしょう。

●アーティストのインタビュー記事（花椿）　https://hanatsubaki.shiseido.com/jp/column2/15405/

●中島 伽耶子展「Hedgehogs　ハリネズミたち」バーチャルツアー　https://my.matterport.com/show/?m=zq6wQRAwAjy

●shiseido art eggとは

「shiseido art egg」は2006年から始まっており、1919年のギャラリーオープン以来の活動理念である「新しい美の発見と創造」をまさに体現するような、瑞々しい新進アーティストを応援する取り組みとして続けられています。

私たちは不安定で流動的な日常を過ごす中で、人々の価値観も大きく変わりました。また、生活様式だけでなく、芸術・文化を取り巻く環境も大きな変化が生じています。資生堂ギャラリーはこういう時代だからこそ、新しい現実を柔軟に受け入れながら、アートがはたせる役割を問い続けていらっしゃいます。