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上野アーティストプロジェクト2022 「美をつむぐ源氏物語―めぐり逢ひける えには深しな―」 in 東京都美術館

東京都美術館では、上野アーティストプロジェクト2022「美をつむぐ源氏物語―めぐり逢ひける えには深しな―」が2022年11月19日(土)から2023年1月6日(金)まで開催されています。
「上野アーティストプロジェクト」は、「公募展のふるさと」とも称される東京都美術館の歴史の継承と未来への発展を図るために、2017年より始まったシリーズです。その第6弾となる本展は、「源氏物語」がテーマです。
源氏物語が持つ多様性をもとに、書、ガラス工芸、染色、絵画など7名の多彩なジャンルの作家さんが紹介されています。現代作家のバラエティに富んだ作品にひろがる源氏物語の世界や、現代まで紡がれてきた美意識を堪能できるでしょう。
また、同時開催となっているコレクション展「源氏物語と江戸文化」も併せて楽しみたいものです。

源氏物語といえば誰しも中・高校生の時に授業を通じて触れる古典ですが、その後に自分で読み込んだりしない限り、なんとなく主人公・光源氏の恋物語とだけ記憶されがちです。本展はそれだけではない、源氏物語の多様な真の魅力に書と美術を通じて触れることができ、現代を生きる私たちの中にある美意識に改めて気づかせてくれる貴重な機会となっています。

 

紫式部により平安時代中期に著された源氏物語は、四季折々の美しい情景とともに、多数の登場人物が魅力的に描かれています。読む私たちは、登場人物と自分を重ね合わせて、物語に感情移入できるばかりでなく、これらの人間模様は現代にも通じるところがあります。
また、描かれる情景や登場する人物のふるまいや心情、詠まれる和歌などに、私たちも大いに共感するところがあり、そこに現代まで紡がれてきた美意識を見つけることができるでしょう。

源氏物語は最初、宮中の公家や武家を中心に受け容れられていましたが、江戸時代には印刷技術の向上などのおかげで、庶民にまで広く読まれるようになります。また、こうして読み継がれていくなかで、文学作品というだけでなく、絵画や美術工芸、芸能などさまざまな分野と結びつきながら、芸術のよりどころになってきました。本展では、こうした時代やジャンルを超えて愛されてきた源氏物語の魅力を、7名の多彩なジャンルの現代の作家さんが表現されています。

 

また副題には「めぐり逢ひける えには深しな」とありますが、これは光源氏が明石の君に宛てた恋文の中の、「みをつくし 恋ふるしるしに ここまでも めぐり逢ひける えには深しな」という和歌から取られています。ここで出てくる「えに(縁)」は、恋だけでなく人とのつながりとして、いつの時代にも大切にされてきました。そしてさらに、美術館で作品とめぐり逢うことも、ひとつの縁と言えるでしょう。本展は、コロナ禍によって大きく変わってしまった人や社会とのつながり方に対して、いつの時代も変わらず大切にされてきたことを見直すきっかけになるかも知れません。

◆展覧会構成・作家紹介
※作家紹介の文章はプレスリリースより引用

【第1章 和歌をよむ】
源氏物語の中では795首の和歌が詠まれており、登場人物の喜怒哀楽やその時の情景が表現されています。また、書風に関する記述が数多く見られ、当時のかなに対する美意識も伺うことができます。
本章では書の作品を中心に構成されており、作品の意図や内容については展示キャプションが添えられているものもあるので興味深く観ることができます。
たとえ書いてある文字が読めなくても、色とりどりの美しい料紙や、筆の運びのなめらかさやリズム、画面構成などを見ているだけでうっとりとすることができ、みやびな世界にひたることができます。

鷹野理芳(たかの りほう/1959~/日本書道美術院)
源氏物語に時を超えても変わらない人の心を見出し、物語のなかで詠まれた和歌を書き続けています。華麗な料紙に、和歌とともに物語に登場する姫君のイメージ像を組み合わせるなど、彩り豊かな作品を制作しています。

 

高木厚人(たかぎ あつひと/1953~/臨池会)
光源氏とさまざまな女性との間で交わされる贈答歌。高木は、二人が和歌を「贈り」、その「答え」を受け取るまでの時間の流れや、それぞれの心の動きに寄り添いつつ、墨の濃淡や墨色、線の強弱を巧みに使い分け、詠み手の喜怒哀楽を表現しています。

 

 

【第2章 王朝のみやび】
華やかな王朝の世界が描かれた源氏物語には、日本の美意識の根幹となっている四季の移ろいや豊かな自然の風景が豊かに表現されています。
源氏物語が成立してから100年以上が経過した12世紀前半ごろ、源氏物語の各帖からいくつかの場面を絵画化した《源氏物語絵巻》が制作されました。これをきっかけに生まれた源氏絵は、その後人気の画題となり、さまざまな絵師が手掛けることになりました。
本章では、現代の視点からみやびな王朝の風景や世界観が表現されたガラス工芸や染色、絵画を楽しむことができます。

玉田恭子(たまだ きょうこ/日本ガラス工芸協会)
独自の製法により、墨流し模様や色ガラスを板状にして何層にも襲(かさね)て形作られています。その層の内部には、「紫式部日記」や源氏物語の和歌が空間に浮遊しているかのように見えます。流れる時間、切り取られた空間、それらにまつわる情感が込められた作品は、平安時代の美的理念を表す言葉「もののあはれ」を具現化することを意識しています。

 

青木寿恵(あおき すえ/1926~2010)
天然染料の草木染めには自然の命や太陽の香りがあると語った青木は、自然の生命力から得た感動を独自の手描き更紗(さらさ)で表現しました。更紗に代表されるエキゾチックな文様だけでなく、源氏物語を題材にした独創的な王朝の世界をモチーフとした作品には、手描きならではのあたたかみが感じられます。

 

石踊達哉(いしおどり たつや/1945~)
「花鳥風月」をテーマに、日本の美の世界を現代的に捉えた作品を制作しています。1996~97年には、瀬戸内寂聴が現代語訳した『源氏物語』(講談社)の装幀画を手掛けました。人物や定型の一場面を描かず、象徴的なモチーフのみで表した抽象的・暗示的な構図は、見る人の想像を膨らませます。

 

 

【第3章 歴史へのまなざし】
紫式部は源氏物語を単なるフィクションとして執筆したのではなく、物語を通して社会の道理や歴史の重要性、人間の本質を伝えようとしました。さまざまな分野に影響を与え、それぞれの時代の特色を取り入れて、受け継がれてきた源氏物語の歴史を理解することは、日本の歴史や文化を知ることにもつながるでしょう。
本章では歴史画で構成されています。特に、本展のメインビジュアルの作品が含まれる、カラーボールペンで描かれた歴史的な背景の前に現代的な人物(女性)が配置された一連の絵画は、平安時代から現代までの時間がぎゅっと濃縮されているようで、鑑賞の締めくくりにふさわしいと感じられます。

守屋多々志(もりや ただし/1912~2003/日本美術院)
本の挿絵や舞台美術の仕事を通して源氏物語への関心も持ち、かねてより物語を総覧する作品を制作したいという願望を持っていた守屋は、その思いから1991年に約3年余りの歳月をかけて源氏物語の扇面画130点を完成させました。淡い色彩と繊細なタッチで、いつの時代も変わらない人間の情愛や苦悩、葛藤を表現したこの作品群から、14点を紹介します。

 

渡邊裕公(わたなべ ひろあき/1950~/光風会)
太さが異なるカラーボールペンを使い分け、中央に大きく描かれた人物の背景には、歴史的絵画や地図が細密に描かれています。制作過程を「原画の世界への時間旅行」と語る渡邊は、筆からカラーボールペンという現代の筆記具に道具を置き換えつつ、制作を通して当時の文化や人の営み、原画を描いた絵師の視覚を追体験するとともに、歴史の一部始終を現代に再現しようと試みています。

 

同時開催:コレクション展「源氏物語と江戸文化」
江戸文化のなかで多様な広がりを見せる源氏物語について、東京都江戸東京博物館のコレクションを中心にその一端が紹介されています。詳細はWebサイトをご覧ください。

 

タイトル 上野アーティストプロジェクト2022
「美をつむぐ源氏物語―めぐり逢ひける えには深しな―」
会期 2022年11月19日(土) ~ 2023年1月6日(金)
会場 東京都美術館 ギャラリーA・C
住所 〒110-0007 東京都台東区上野公園8-36
Webサイト https://www.tobikan.jp/exhibition/2022_uenoartistproject.html
開室時間 9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
12月2日(金)、9日(金)、16日(金)、23日(金)は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)
休室日 12月5日(月)、19日(月)、29日(木)~2023年1月3日(火)
料金 当日券
一般 500円
65歳以上 300円※学生以下は無料
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料
※学生の方、65歳以上の方、各種お手帳をお持ちの方は、証明できるものをご提示ください
※特別展「展覧会 岡本太郎」(会期:2022年10月18日(火)~12月28日(水))のチケット提示にて、入場無料
※事前予約なしでご覧いただけます。ただし、混雑時に入場制限を行う場合がございますのでご了承ください